【プロ インプレッション】新作ハイクシューズ「CIRCADIA(サーカディア)」をアウトドアライター高橋庄太郎がインプレッション
2022年7月27日に発売されたばかりの「CIRCADIA(サーカディア)」コレクション。エントリーハイカーやライトアウトドアファンをサポートするサーカディアとは?KEEN定番トレッキングシューズ「ターギ―II」との違いは?そんな疑問も含め、アウトドアライター高橋庄太郎さんがフィールドテスト。
リーズナブルなのに、これだけの実力!
安心して山を歩ける
寄稿・写真:高橋庄太郎
現在のキーンを代表するトレッキングシューズのひとつが、「ターギー」シリーズである。アッパーの高さや使用素材などによっていくつかのタイプに作り分けられているが、どれもよく足になじみ、アウトドアから街まで履く場所を選ばない。非常に汎用性が高いモデルだ。
今回ピックアップした新型モデル「サーカディア ミッド ウォータープルーフ(CIRCADIA MID WP)」は、そんなターギーのデザインを母体に開発されたものだという。以下の画像の右が「サーカディア ミッド ウォータープルーフ」(以下、サーカディア ミッド)で、左が大定番の「ターギーII ミッド ウォータープルーフ」(以下、ターギーII ミッド)だが、たしかに雰囲気が似ている。
だが、細かなディテールは思いのほか異なる。なにより実際に履いてみると、かなり履き心地が違うことがわかるはずだ。
では、ここからは必要に応じてターギーII ミッドと比較しつつ、サーカディア ミッドの持ち味をお伝えしていきたい。
サーカディア ミッドのアッパーは、防水レザーと通気性に優れたメッシュ素材のコンビネーション。内側に独自の防水透湿テクノロジーである「キーン・ドライ」が使われ、雨にも強い構造だ。
重量は555g(片足27.0㎝)。同サイズのターギーII ミッド ウォータープルーフは493gで、サーカディア ミッドは少し重いことになる。その理由は、サーカディアのほうががっしりした造りだからなのだが、それについては後述したい。
以下の写真の左がサーカディア ミッドで、右がターギーII ミッド。
キーンらしい特徴であるつま先のトゥ・プロテクションは、サーカディア ミッドも踏襲している。一方、シューレースはつま先近くまでは取り付けられておらず、シューレースを締めても足指付近には少し余裕が生まれる。
なお、ターギー ミッドはサーカディア ミッドよりもつま先のほうまで締められるため、シューズ前方のフィット感はサーカディア ミッドよりも高いが、それを窮屈だと思う人もいるかもしれない。足指付近に余裕があるほうが好きな方は、サーカディアのほうがよさそうだ。
シューレースはつま先からループに通していくが、最上部のみフックになっている。履き口が大きく開くので、足入れはしやすい。
ただ、シューレースを無用に長く垂らしていると、歩行中に反対側の足のシューレースがこのフック部分に引っかかることがある。それが気になる方は、使用する際に短くまとめて結ぶとよいだろう。
次はサーカディア ミッドとターギーII ミッドを後ろから見たカットだ。左のサーカディア ミッドは右のターギーII ミッドよりもアッパーが高く、他のシューズメーカーであればハイカットの範疇に入れるかもしれない形状だ。その分だけ、足首を守る力は高くなる。
また、かかとはエッジがアウトソールのエッジが効き、非常にがっしりしている。丸みを帯びているターギーII ミッドとはかなり異なる印象で、これが重量増の一因でもあるが、見ただけで安定感の高さが伝わってくるではないか。
アウトソールのパターンに至っては、まったく違うものになっている。
上の写真の上側のシューズがサーカディア ミッドで、下側がターギーII ミッド。見ればわかるように、サーカディア ミッドのパターンは、ターギーII ミッドよりも細かいのだ。さらに以下の写真で、サーカディア ミッドのアウトソールを念入りに見ていただきたい。
かかと同様に、アウトソール全体の縁のエッジが立っているのが特徴で、地面に接する面積もかなり広くなっているのである。
サーカディア ミッドへ実際に足を入れてみると、つま先付近以外はやはりターギーII ミッドのフィット感と似ている。
アッパーが高い分だけ足首の固定力は増しているが、ターギーII ミッドと大きな差を感じるほどではない。ただ、サーカディア ミッドは履き口を少し狭めているらしく、その分だけかかと付近のフィット感は高いようであった。
そんなわけで、ここからは登山道を歩きながらサーカディア ミッドの実力を確かめていきたい。
ちなみに歩行前、アッパーやアウトソールの特徴から、キーンのモデルのなかでもサーカディア ミッドはとくに登山向きではないかと僕は予想していた。
さて、その考えは当たっているだろうか?
歩き始めてすぐにわかったのは、サーカディア ミッドの安定感の高さだ。地面に足を置いたときのブレが少ないのである。
その理由は、やはりアウトソールのかかとの形状だろう。サーカディア ミッドのアウトソールは、前足部も後足部も左右に少し張り出している。そのためにかかとが地面に接してから体重がかかっていくと、自然にアウトソール全体が地面に接していく。アウトソールの右側だけ、左側だけなどと偏らないので、安定感が高いわけである。
また、このようにかなり傾斜した状態で地面に接しても、アウトソールのエッジが効いているので、それ以上はシューズが傾かない。強制的にアウトソールが正しい位置に戻るともいえ、そのために足首をひねって捻挫をする恐れが少ないのだ。
かかと、および足首の安定感をさらに高めるのに役立っているのが、「ヒールロックシステム」という独自のシステムだ。
これは、フックの一段下の部分のシューレースが、かかとを巻くようにつけられたテープと連動し、フィット感を高める工夫である。サーカディア ミッドのアッパーは少し柔らかめということもあり、このヒールロックシステムの締め付け効果がしっかりと発揮されているようだった。
足を前方へ蹴りだしやすいのも、サーカディア ミッドの特徴のひとつだ。
とくに木道のような平坦な場所では、顕著にそれがわかる。丸みを帯びたトゥ・プロテクションを持つキーンのシューズは、足を蹴ったときにつま先の部分が広く地面に接するが、そのために足先がブレず、効率よく脚力を全身運動へ変えられるのだ。
足先のブレが少ないことは疲れを軽減する効果も高めてくれる。
おもしろいのは、かかとを中心とした後足部と、つま先を中心とした前足部で、地面に接する感覚が大きく異なることだ。
シューズ内部に敷かれている弾力性が高いフットベッド自体は、ターギーII ミッドなどと同様なのだが……。
じつは、サーカディア ミッドにはアッパーとアウトソールを熱で圧着させる「ダイレクトアタッチ」という製法が取り入れられ、ミッドソールはそれらの間に流し込んで形成される。それとは別に足裏全体にEVAとパルプのボードを2枚、かかとには小さめのEVAのボードをさらにもう1枚の張り付けた「LUFTCORE」というテクノロジーも採用し、歩行力を高めている。ただ、内部が見えない以上、それらのテクノロジーを理解するのは難しいかもしれない。
ただ、歩いたときの実感はわかりやすい。簡単に言えば、つま先から土踏まずまでの前足部は“薄く”感じるために地面の感触をとらえやすく、かかとは“厚く”感じるためにクッション性は高くキープされているのである。つまり、シューズの前方と後方で、まったく異なる足裏感覚なのだ。この履き心地はターギーII ミッドとも似ているのだが、サーカディアミッドはその感覚がもっと高まっているのであった。
この履き心地は、慣れないうちは違和感を覚える方も多いかもしれない。とくに岩がゴツゴツした場所では前足部の薄さが気になるだろう。だが僕個人は、とくに問題とは思えない。むしろダイレクトに地面を感じながら楽しんで歩くことができる気がするのだ。
安定感を持って地面へ接するアウトソールだが、グリップ力も充分であった。
湿って滑りやすくなった階段状の場所や、べたつく泥の上でも地面をつかんでくれるため、安心して歩くことができる。
アウトソールのパターン、サイドのエッジの立ち上がり方、全体の面積などの総合力が高いからであろう。
ハッキリ言えば、グリップ力はターギーII ミッドの数段上だ。
完全に足元が濡れた、沢を横断するような場所でもグリップ力は上々である。アウトソールの素材がいくぶん硬めなのも効果的なようだ。
もっとも、うっすらと苔が生えていれば、他のシューズ同様に滑ってしまうが、これは仕方がない。
キーン・ドライを使ったアッパーからの浸水も、もちろんない。表面の撥水性も十分で、濡れてから少し歩いているだけで、ほとんどの水滴は落ちてしまった。
このときは気温が高い山の中を丸一日歩いたが、透湿性も十分。サーカディア ミッドはレザーを使っている面積がそれほど多くはなく、これがシューズの透湿性の向上につながっているようである。
さて、結局、サーカディア ミッドはどのようなシューズだったのか? 僕の率直な感想は、定番モデルであるターギーの流れを汲むというデザインながらも、じつは想像以上に"違う"シューズだったということ。個人的な好みで言えば、実際に登山やトレッキングに使うならば、サーカディア ミッドのほうがいい。フィット感が高いのも好印象だが、なんといってもアウトソールが滑りにくいからだ。前足部が薄く感じ、地面の凹凸を感じられるのもおもしろい。しかも価格は、キーンのトレッキングシューズのなかでもリーズナブルだ。それでいて、トレッキングに必要な機能は十二分に備わっている。そんなサーカディア ミッドは、はじめてのトレッキングシューズにも非常によさそうなのであった。
高橋庄太郎(アウトドアライター)
高校の山岳部で山歩きをはじめ、出版社勤務後にフリーランスのライターに。著書に『山道具 選び方、使い方』『テント泊山行の基本』など。近年はアウトドア系ウェブメディアでの連載やイベント出演が多く、アウトドアギアのプロデュースも行っている。Instagram:@shotarotakahashi
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