熊本で育てられたお米を福島へ。Rice Field FES.という元気をもたらすキャッチボール。
熊本で育てられた300キロのお米。
熊本の野菜やお米を、東日本大震災で被災した福島の子供たちに届けることを目的にした「change the world」。2012年にスタートしたこの活動が、新たな一歩として試みているのが「Rice Field FES.」です。みんなで田植えをし、育て、稲刈りして、天日で干す。そしてそのお米を熊本から福島県南相馬市のよつば保育園に届ける。一年というサイクルを通してのプロジェクト。KEENもこのプロジェクトに加わり、6月の田植え(田植え時の様子はコチラ)、11月の稲刈り(稲刈り時の様子はコチラ)に参加してきました。およそ一反のRice Field FES.田んぼで収穫できたお米は270キロ。お米はのはら農研塾プロデュースによる、安全・安心の無農薬米です。change the worldを立ち上げ、Rice Field FES.の中心となっているシンガーソングライターであり、KEENアンバサダーでもある東田トモヒロさんによると、「手で田植えした田んぼでは、普通は一反で200キロくらいの収量なんだけど、みんなの想いが一本一本の苗にも届いたんじゃないかな。めちゃくちゃうまいお米だよ」とのことでした。
笑うことの大切さを教えてもらう。
東田さんが、初めてよつば保育園を訪れたのは東日本大震災があった2011年12月のことでした。
仲間から託されたクリスマスプレゼントを持っての訪問でした。「最初に来た時は園庭で子供たちが思いっきり遊んでいない。必要なものはおもちゃではないって気づいたんだよね。もっと必要なものは安心して食べられる食べ物なんだって。それでchange the worldを立ち上げたんです。最初の訪問の時にみんなで写真を撮ったんだけど、みんな笑っていなかった。お父さんお母さんも、みんながセンシティブになっていて、笑うことを忘れていたのかもしれない。熊本に帰って、写真を見てからそのことを感じて。翌年にスイカを送ったら、ありがとうのメッセージと共に写真が送られてきたのね。その写真の子供たちはみんなが笑っていた。安心して食べられるものがあるだけで、みんなが笑顔に包まれる。その笑顔が忘れられなくて、今も続いているわけ」と東田トモヒロさん。
自分たちで想いを届ける。
田植えや稲刈りに参加した多くの人たちの想いも一緒に届けること。そのために東田さんが考えたのは、運送会社を使って送るのではなく、自分たちで届けること。この想いに賛同したKEENアンバサダーであるライブペインティングユニットのGravityfreeと、東京の果物店であるフタバフルーツも一緒に南相馬に行くことになりました。フタバフルーツは、去年の春にCDレーベルを立ち上げ、東田さんとギタリストの小沼ようすけさんのユニットであるGLIDERSのアルバムをリリースしています。
熊本と福島のキャッチボール。
田んぼで収穫した270キロとRice Field FES.でお米作りをサポートしてくれているのはら農研塾からプレゼントされた30キロを足した300キロのお米を持ってよつば保育園へ。予定の時間より早く到着したのですが、子供たちは園庭で思いっきり遊んでいました。
お米を渡すというセレモニーは、150名の年中さんと年長さんが集まって行われました。よつば保育園の近藤能之先生によると、このセレモニーも子供たちの教育のひとつなのだと言います。お米を保育園に手渡し、子供たちから「ありがとう」の感謝の言葉をもらう。そして子供たちの代表から、感謝の気持ちの気持ちをいっぱい詰め込んだ色紙が、東田さん、Gravityfree、フタバフルーツ、KEENに贈られました。これこそ、Rice Field FES.がもたらしたキャッチボールに他なりません。
Rice Field FES.をきっかけに、KEENと東日本大震災の被災地であるよつば保育園とつながることができました。50名近くいるよつば保育園の先生や職員の方に、シューズをプレゼントしました。子供たちと一緒の時間はもちろん、いろんなシーンで愛用してもらえればと思っています。
一緒に歌うことで生まれる「元気」。
東田さんは、アコースティックギターを抱え歌を披露しました。子供たちと一緒に歌うために用意されたのは「鬼のパンツ」と「ありがとうの花」。子供たちが普段から歌っている曲です。「鬼のパンツ」では立ち上がって歌い、「ありがとうの花」ではギターに合わせて合唱する。最後は東田さんオリジナルの「インディゴブルース」。3曲で終わる予定がアンコールもあり、次のアルバムに収録される予定の新曲も東田さんは優しく歌いました。
「『ありがとうの花』は歌詞も良くて。福島の子供たちが歌うとさらにグッと心に響く。俺が『イエ~イ』ってコールしたら『イエ~』って返してくれた。よつば保育園に来たのは4回目なんだけど、一番元気があったな。確実によつば保育園の子供たちが元気になっていることが実感できた。元気を持って行っていくという気持ちでお伺いするんだけど、逆なんだよね。こっちが元気をもらっている」と東田さん。
「ありがとう」の絵を自由に描く子供たち。
東田さんのミニライブの後に行われたのが、Gravityfreeのお絵描きワークショップ。KEENの段ボールに、年長さんが4人一組になってキャンバスとなる段ボールを囲みます。描くテーマは「ありがとう」。食べ物、人、太陽や海などの自然…。自分が思った「ありがとう」をクレヨンを使って描いていきました。
「子供ってお絵描きが好きじゃない。絵を描くことって、子供も大人も、誰もが可能なパフォーマンスじゃない。それが一緒にできるのってGravityfreeのふたりしかいないと思って誘ったんです」と東田さん。
「一緒に一枚の絵を子供たちと描いたことはあったけど、こうしてワークショップというスタイルでは初めてでした。大きな箱で4人で描くセッション。飽きちゃったりする子もいるのかなって思っていたけど、みんなが没頭して絵を描いているのが印象的でした。絵にはそれぞれの個性が出ていたし」とGravityfree。
ワークショップ終了後には、参加した年長さん全員に KEENのクレヨンセットをプレゼント。実はこのクレヨンを使ってお絵描きワークショップをしようと考えていたのですが、最初にプレゼントをもらってしまったのではテンションが子供たちのテンションが上がり過ぎるという近藤先生のアドバイスもあり、終わってからのプレゼントになりました。クレヨンセットを手にした子供たちの顔は笑顔でいっぱいでした。
おいしい笑顔が広がる幸せ。
フタバフルーツは、リンゴ、イチゴ、ミカン、パイナップル、グレープフルーツという5種のフルーツをカップに入れて保育園に持ってきてくれました。お昼の給食の後にプレゼント。口にほおばるとおいしい顔が広がります。
「甘い、酸っぱい、苦い。みんなが一人一人が違うように、フルーツにはいろんな味があります。そのいろんな味を、今日は味わってください」とフタバフルーツの成瀬大輔さん。
近藤先生のはからいで、給食を子供たちと一緒に食べさせていただきました。よつば保育園で出されている給食の食材は、今もすべて福島県外産のものばかりです。しかもひとつひとつの放射線量を測り、安全なもののみ提供されています。給食もフルーツも、みんなが残さずに食べ終えるのが印象的でした。
「今、保育園にいる子供たちは、震災からだいぶ時間が経ってから生まれてきた子供たちです。福島の食べ物に関して、それほど心配していない保護者も多くなってきました。入園する際に、うちは県外産のものにこだわって、今もシビアに線量を測検査して提供しています、とお伝えしています。その言葉に、うれしそうな、ほっとするような顔をされるお父さんやお母さんが多い。だから気にしないようにしているっていうのが正解かな。今も心のどこかでは気にしている。だから、こうして熊本から贈られてくることが続いているということがうれしいんだと思うんです。安全と安心ってぴったしくっついていないんですよね。安心感を持ってもらうためめに、県外産のものを使い、検査を続けているんです」と近藤能之先生。
いつか安全と安心がマッチする日へ。
「今年は自分たちで届けるということを目標に続けてきた。フタバフルーツのフルーツ、 Gravityfreeの絵、そして俺の歌も届けることができた。KEENも含め、一人一人が持っている花を花束にして届けることができた。なんかバンドのツアーを成功で終えることができたっていう感覚に近いかな。ツアーのファイナルに設定していたのがよつば保育園。こんなに満足できるフリーライブはなかなかないね。俺の夢のひとつって、change the worldの活動を終えるっていうこと。change the worldがやっていることが必要とされなくなること。福島に食べ物を送らなくていいという状況。安全な地元のものを、安心しておいしく食べられるっていうことが一番なわけだから」と東田さん。
東田さんの頭の中には、2年目、そして未来のRice Field FES.がはっきりと描かれているようでした。